静龍の庵

「彼の心」

占い案内をしていてよく寄せられる相談に、「彼の気持ちを知りたい」というものがある。
人は恋をすると相手の気持ちと自分の気持ちの間の距離を縮めたいと思うものであるから、こういう相談が多いのは頷ける。

頷けるのだが、人の気持ちを正しく読み取ることのできる占術を、いまのところ私は知らない。
命術を使えば相性や縁、今現在相手がどんな運気の中にあるのかは鑑定できる。
卜術を使えば、その恋の行方を命術とは違う観点から占うこともできるだろう。

しかし、意中の彼がいまどんな気持ちでいるのかというのは、どちらの術を用いても読めないのではないかと思うのだ。

強いて言うなら、霊視のような特殊な力をもってそれをすることはできるかもしれない。
けれども、諸行無常という言葉があるように、そもそも人の気持ちというものは一瞬ごとに移り変わっていくものではないかとも思うのだ。

いま、この瞬間に読み取った気持ちが数分後にも持続しているという保証はどこにもない。
そんな不確かなものを把握しようとすることに、果たして意味はあるのだろうか。

そう考えると、そもそも人の気持ちを知りたいと願うこと自体が虚しいことだといえるのかもしれない。
それでも、恋をすると人はそういう気持ちになってしまう。自分自身の乏しい経験からかんがえても、そういうものなのだろうと思う。

そんな時、占術でどのように人の心を救うことができるのだろう。
好きな人が自分をどう思っているのかが分からず苦しくて仕方がない、という状態にある人にとって、必要なのは「人の気持ちなど読めるものではありません」という理屈ではない。
占いにすがる人が求めているのは、ともすれば折れてしまいそうな心を支えてくれる何かであるはずだ。

そうした問いかけになんらかの形で答えていくのが、占いを志す人間の仕事なのではないかと思う。

相談者の聞きたい甘い言葉だけを紡ぐのが占い師の仕事ではないだろうけれど、どんな形であれ人を救うことができないのだとしたら、その占いには価値がないのではないか。
そんなことを、最近つらつらと考えている。

何が正しいのかは、まだ私にはわかっていない。
もしかするとそれは、この先の人生を通して、考え続けなくてはならない問いなのかもしれない。